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異世界からの帰還 Ⅳ

     1 ミカリナ王国へ
 タミンは、何とかしてミカリナ王国で色彩を復活させたいと考えた。そのためにはアカミに自分の考えを認めさせなければならないと思った。そこでかつて自分も住んでいて現在もアカミがいる宮殿に忍び込むことにした。「もし、アカミを説得できなくても、いつか宮殿に自分の仲間がやってくるかもしれない。おそらくその可能性は高い。なぜなら前の時代にやってきた者は少ないからだ」

ハイキングでいっしょに霧に迷った人たちは大ぜいいたが、それらの中でこの世界にやってきた者は少なかった。タミンは、今後もミカリナ王国にやってくる者がいるはずだと考えた。彼は文書を書いて隠しておくことにした。それは、ムトが行ったのと同じ方法であった。そうすることによって、この国から灰色の勢力を駆逐しようと考えた。ミカリナ王国では、門を通って新しくやってきた者が王や女王となることになっていた。もし王や女王になった者が側近に騙されずよく事態を理解しうまく対応できれば、灰色の勢力に負けることはないはずであった。

 タミンは、文章をトルホー語で記載した。この世界の住民の言語はバスダ語であった。この世界のすべての国々で同様であった。多少異なる点はあっても、方言程度の違いにすぎなかった。一方、元の世界には多数の言語があり、その中でトルホー語がもっとも幅をきかせており、彼らの学校でもトルホー語が必修となっていた。元の世界でバズダ語を話すのはタミンたちの住む一部の国だけで、トルホー語に比べてずっと少数であった。したがって、トルホー語の文章はここの人たちにはわからないだろうが、自分たちの仲間にはわかるはずであった。

 タミンがミカリナ王国へ出掛けようとしたとき、ワーヌ妃は危険なのでやめさせようとしたが、タミンが説明すると納得した。ワーヌ妃もタミンがそうするのをもっともだと思った。

 タミンは、ミカリナ王国へ行き、何とか宮殿に忍び込むことに成功した。元々住んでいたところであったので、宮殿内の間取りはよくわかった。彼は王の寝室にやってきて、文書を隠した。隠したところは祭壇で、「宇宙人の教典」とこの国の言葉で表に記載しておいた。そこには元々別の教典がおかれてあったが、タミンはすり替えておいた。

文書を隠した直後にアカミが部屋に入ってきた。タミンは、アカミがまったく色彩を失っているのにびっくりした。タミンはアカミを説得しようとした。しかし、アカミは応じなかった。彼女は、タミンの言うことを理解できなかった。タミンは、アカミが正気を失っていると感じた。

 アカミは、兵士を呼んでタミンを捕まえさせようとした。タミンはアカミを捕まえ捕虜として連れていこうとした。兵士たちも、アカミが危害を加えられるかもしれず手が出せなかった。彼らは宮殿の地下に入った。そこで気を失ってしまった。二人は元の世界に戻った。

     2 帰還
 二人が戻った場所は、ハイキングで行っていた山の下山口であった。前方には町が見え、彼らの通っている学校があった。ちょうど昼間であった。辺りには霧がまったくなかった。二人は狐につままれたような気がした。ミカリナ王国ですごしたことが真実かそれとも夢なのかわからなかった。彼らは学校の門を潜り、自分たちの所属していた教室に向かった。タミンは、アカミの顔に色彩が戻っているのを発見した。アカミは、「今までのことはよく覚えていないわ。あなたに意地悪をした記憶が多少あるくらいだわ」と言った。タミンは、「多少くらいじゃないよ」と言いたかった。教室の入り口を開け中に入ると、みなびっくりして二人の方によってきた。彼らは授業を受けていた。

二人が戻ったのは、ハイキングが行われてから一か月後であった。三十七人のハイキング参加者のうち、二十人ほどは一両日のうちに戻ってきた。それらの者の中で特別な経験をしたものはなく、霧の中を彷徨い霧が晴れると学校のある場所に戻ってきただけであった。中には驚くほど遠くまで行った者もあったが、それらもこの世界から離れたわけではなかった。しかし、十数人の者は、戻ってこなかった。人々は、彼らが山の中で遭難して死んだのではないかと考え、大勢の者が出て山の捜索を行った。しかし、誰一人として発見することができなかった。人々は、彼らがどこに行ってしまったのか不思議に思った。

 ハイキングの日から半月ほどして二人が戻ってきた。その二人はヨジとイムマヨであった。彼らはみんなに、「自分たちは別世界に行き、そこで王と女王となり、十数年も過ごした」と説明した。しかし、みんなに、それは夢なのだろうと言われ、誰も信用してくれなかった。

タミンは、ヨジとイムマヨの話にうなずいた。「それは夢ではないよ。僕たちもヨジたちの二百年後に同じ世界に行き、そこで王と女王になったんだ。四人が同じ世界に行ったような夢をみるわけがない。間違いなく真実だよ」と説明した。他の者たちは、四人が経験した不思議な体験を興味をもって聞いていた。

 それから一か月たって、さらに二人が戻ってきた。エルノとカリナであった。彼らはタミンたちと出会うと、「僕は、君たちがミカリナ王国でやったことを知っている。君が書いた文章を読み、その通りに実行したので、ミカリナ王国は見事に復活した。君がやったことは無駄にはならなかった。それは僕たちがあの世界で過ごす上でとってもプラスになったよ」と言った。

 それを聞いてタミンは喜んだ。エルノの話は次のとおりであった。

     3 エルノとカリナの活躍
 エルノとカリナの二人も、ハイキングの際霧の中を歩いていて他の者たちと別れて二人きりとなった。さらに進んで霧が晴れるところまでやってきて、門を通ってミカリナ王国へ入った。彼らは、行ってもすぐに即位できなかった。反対する勢力があったからだ。しかし、結局彼らは支配者となることができた。

ミカリナ王国はそのころすっかり灰色となり、活気がなくなっていた。一方、ミカリナ王国の近隣の国々では色彩を持った勢力が回復していた。最初エルノたちは、側近の者たちから統治のやり方を教わり、それを忠実に実行していた。しかし、なぜミカリナ王国が色彩がないのか不思議に思っていた。活気のなさも気になった。そのときエルノは、自分の部屋にある祭壇に掲げてある「宇宙人の教典」を見た。その本がトルホー語で書かれてあるのはわかったが、彼はトルホー語が得意ではなかった。それでカリナに読んでもらった。彼女はクラス一番のトルホー語の使い手であった。それによって彼らは、自分たちの真の味方は反乱軍で、側近の者こそ敵であるということがわかった。彼らはミカリナ王国の復活を断行することにした。側近の者たちを一人ずつ排除していった。彼らは抵抗したが、この国では王の権力の方が圧倒的に大きかったので、敵はどうすることもできなかった。

 それからエルノは、他の国々から移民を受け入れることにした。国力の低下によりミカリナ王国は人口が減少しており、農場の中には耕されず放置されているところがたくさんあった。移民は主にロザラ王国やメシュ王国から受け入れた。この両国が最も活気があり、色彩も豊かであったからだ。この両国には、他国に見られない美しくそして大きな花々が咲き乱れ、蝶々や果実も大きく美しかった。人々の服装も奇抜であった。ロザラ王国は、灰色の侵略者が帰ったあと、ミムー妃が復帰し女王となっていた。彼女は、何人かの男と別れたあと数人目の男とようやく落ち着き、現在はその子供が王となっていた。一方、メシュ王国は、ワーヌ妃が新しい男を婿にとって後を継ぎ、ここも息子が王となっていた。

やってきた移民たちはみな活気があり、彼らが中心的な役割を果たすようになった。そして、元々のミカリナ王国の人たちの活力も復活させて、ミカリナ王国は活性化していった。

 劣勢となった灰色の勢力では、本国から援軍を派遣することを計画した。それを阻止するためにエルノは、先回りし灰色の世界を攻撃することを考えた。エルノは隊長となり、灰色の世界に向かった。灰色の世界とは、タミンやエルノたちの世界とは異なり、ミカリナ王国のある世界と行き来することが可能であった。灰色の人々は、その世界ではミカリナ王国のある世界の人間は生きていくことができないと説明していたが、エルノは灰色の連中が両方で住むことができるのだから自分たちも可能なはずだと考えた。向こうへ行く方法はすでに把握されていた。

 行ってみると、驚いたことに灰色の連中が住んでいた世界は灰色ではなかった。マグナ学園のある世界と同じように色彩を持っていた。灰色の人々は、その世界の中の一勢力にすぎなかった。彼らは、かつてその世界でも権勢を誇っていたが、戦いにやぶれ、現在ではとても小さな勢力となっている。灰色なのは限られた区域だけであった。彼らは、その世界の中で良からぬことを行う人々だとされ、魔法使いと思われ、恐れられたり嫌われたりしていた。しかし、だんだん力を無くしていたので、恐れる者はほとんどなく、嫌われたり馬鹿にされたりすることの方が多かった。エルノは、その世界で一人の王と仲良くなった。両者は共通の利害があるので、いっしょに灰色の人々を攻撃することになった。そして敵を降参させ、彼らが二度とミカリナ王国にやってこないことを約束させた。ミカリナ王国のある世界から灰色の勢力はまったくいなくなった。

 こうしてミカリナ王国は完全に復活した。そして、エルノとカリナの二人も宮殿の地下を歩いているとき突然気を失い、この世界に戻ってきた。

 タミンは、エルノたちの話を聞いて、ほっとすると同時に、自分の考えを忠実に実行してくれたエルノたちに感謝した。自分の努力が無駄にならなかったこと、結果を知ることができたことを喜んだ。タミンは、エルノにカリナがよく協力したことを知って羨ましいと思った。自分の場合アカミの協力はほとんどなかったからだ。その上、ミムー姫やメシュ王国の三姉妹などに散々酷い目に合わされていたので、その思いは強かった。

 それから以後、ハイキングの際行方不明となっていた生徒たちが戻ってくることはなかった。したがって十人ほどの子供たちが行方不明のままであった。そのうち何人かはミカリナ王国での生活について明らかであったが、他の者たちはそれすらも不明であった。

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